ソメスサドルの前身にあたるオリエントレザー社は、1964年、北海道歌志内(うたしない)市に誕生した。衰退する石炭産業に代わる新しい産業として、北海道開拓に使われた農工馬の道具職人を集めて馬具生産を開始。馬具の国内市場は小さかったので、製品を海外へ輸出して業績を伸ばした。だが設立10年目に、オイルショックによる円高で大変厳しい経営に直面し、会社は大胆なリストラを余儀なくされた。ソメスサドルはこれを契機に馬具の販売を国内に切り替え、同時にバッグや財布など、一般向けの革製品も製造販売するようになる。
ソメスサドルのバッグの特徴は、隅々まで配慮が行き届いた精緻なつくりと、長きにわたって使える高度な耐久性。そして、いつまでも飽きのこないシンプルなデザイン。欧州ブランドのような派手さはないけれど、製品の完成度は極めて高い。そこにあるのは、北海道でしか生み出し得なかったクラフトマンシップ。苦難の道をたどった国産ブランドは誕生から半世紀を経て、世界に知られる存在となった。
国内唯一の馬具メーカーとしての"誇りと技術"
馬具の生産からスタートしたヨーロッパの革製品ブランドは珍しくないが、日本ではソメスサドルが唯一の存在。製品は北海道中央部の砂川市に構えた、赤レンガ造りのファクトリーで生産されている。ちなみに社名のソメスサドルは、フランス語で頂点を意味する"sommet"と英語の鞍"saddle"を掛け合わせた造語。ソメスサドルのものづくりの原点には、常に馬具があるのだ。
「競走馬の騎手は、わずか18mm幅の鐙(あぶみ)の革ベルトに命を預けています。極限までに高い機能と耐久性が求められる世界。そんな馬具を作るには、確固たる信念と高い技術を持った職人が欠かせません」
と語るのは同社常務取締役の染谷尚弘氏。現会長の長男にあたる。
馬具をベースにしたソメスサドルのクラフトマンシップは、バッグやレザーグッズ、ステーショナリーなど、一般向けの製品にもしっかりと活かされている。だが10年ほど前まで、ソメスサドルは知る人ぞ知る革製品メーカーだった。状況が変わったきっかけは、2008年7月に開催された北海道洞爺湖サミット。世界中が注目する晴れの舞台で、参加した主要国の首脳夫妻にソメスサドルの特製バッグがプレゼントされたのだ。このニュースが報じられた時から、北海道の小さな町にあるメーカーは、世界にその名を知られる存在となった。